東洋医学には「未病」という言葉があります。その意味するところは次のとおりです。
「健康状態の範囲であるが、病気に著しく近い身体または心の状態」
ようするに、ある病気の一歩手前の「予備軍」といったところです。
何なのか分からない自分の心身の不調。
原因不明の不調に「うつ」という名前が与えられると予備軍の人たちはホッとすることすらあるのです。
増加するうつ予備軍
現代はとりわけ「うつ」の未病人口が増えているといいます。
この未病を忙しさにかまけてそのまま放置していると、次第に悪化して「真性うつ」に移行する確率が高くなります。
そうなってしまう前に、どのように手を打てばいいのでしょうか?
その第一歩は、「漠然とした不安の対象」を明確化させることです。
ちょっと驚くかもしれませんが、うつ予備軍の中には「うつになりたい」「うつと診断されたい」という人が一定数いるそうです。
おそらく、それは次のような理由からではないでしょうか。
得体のしれないものが一番怖い
人が感じる不安や怖れといったネガティブな感情のうち、最も厄介なものは「対象の分からない漠然としたもの」です。
何が不安なのか分からないけど、とにかく不安で仕方がない。問題がとても大きく感じられ、体がすくんで動けなくなります。
不安の対象がハッキリしていれば対策の立てようもあるけれど、何をすればいいか分からないという状態は一番タチが悪いものです。
その理由で、予備軍の人はつらいこの気分に「名前」を欲しがる傾向があります。
「自分は一体どうしてしまったんだろうか…?」それが分からないのは、やはり不安で不安で仕方がないのです。
危険な思い込みと安心感
けっして仮病などではなく、つらい症状は確かにそこにある。その症状や気分を本人たちもどう扱っていいか分からない。
とてつもない不安に駆られてネットで検索すると、うつ病関連の情報が次々にヒットすることになります。そこで決定的に思い込むことになるのです。
「ああ、自分のこの症状はうつなんだ」と。
この時の心理は、症状が何か得体のしれないものではなく「うつ」という病気なのだと分かっただけで少しホッとします。
得体の知れない不安や怖れを抱えていた頃よりは気分が落ち着きます。
受診で未病から病気へ移行する
心理学者・植木理恵さんの著書『ウツになりたいという病』によると診察にくる人の6割はカルテに「ウツ病」と書けない「ウツもどき」だといいます。
うつ病という名前で症状をラベリングされると、安心する人さえいるといいます。
予備軍の人の「うつと診断されたい」という心理はおそらく前述のような理由から生まれているのでしょう。
ですが、そのように思い込むことによって実際には違っても真性うつへの移行を促進してしまう可能性があります。
投薬治療が始まると、うつであることを疑う余地もなくなるからです。
そうならないためには、一体どうすればいいのでしょう。
診察前にできることを試す
必要なのは「うつかもしれない」という前提をいったん外すことです。そう決めつけるのはもっと後でも間に合います。その前にできることを試しましょう。
今、あなたの脳の中には、悩みや怖れがゴチャッと入っている状態です。その状態で前向きなことを考えようとしても上手くいくはずがありません。
新しいことを思考するためのスペースがないのですから。
ブレインダンプ
思考スペースを作るために、一旦脳の中身を全部紙に書き出します。
順番はどうでもいいし、文字の色も大きさもこだわらなくていいです。とにかく嵐のようにいったん全部吐き出して下さい。
脳の中身を最後の一滴まで。そして脳の中を一度空っぽにするのです。
これは「ブレインダンプ」と呼ばれる手法ですが、何か新しいことを思考する際には、とても有効な作業になります。
抱えている悩みの量が多ければ、数時間かかる場合もあるでしょう。しかし必ずやる甲斐はあるので、挑戦してみてください。
脳の中身を「見える化」できた!
実は、このブレインダンプの「最大の目的」は先に述べた、脳に思考するためのスペースを作ることではありません。「究極のToDoリスト」を手に入れることにあるのです。
紙一面に吐き出された自分の脳の中身を眺めていると意外と「同じようなこと」が並んでいることに気づくはずです。
それらの重複を消してまとめていくと、あれほどたくさんあると思っていた悩みも、思っていたより少ないことに気づくはずです。
整理したら、目の前の事態を改善させるには「何をすべきか」が何となくでも見えてくるのではないでしょうか?
究極のToDoリスト
その何となく見えてきたものをリストに書きおこします。こうしてできたものが、「究極のToDoリスト」になります。
そこまでできたら、あとはリストの項目を「今できること」からやっていくようにします。
この段階では、感情ではなく行動にフォーカスして下さい。さらに言えば「感情を介さずに行動する」ということです。
今までの得体のしれない漠然とした不安や怖れが何に対するものなのか。ブレインダンプで吐き出したあなたにはもう分かっているのです。
試してみる価値はある
このように相手が分かれば、戦略の立てようもあるのです。
もちろん現在の心身の状態は人それぞれだと思います。ここで紹介したことが、全員に有効なやり方だと限りません。
ですが、私自身この方法で過去に何度も救われたのも事実です。
私と同じように、このやり方が有効な人もいると思います。なので、自分自身がうつ予備軍から脱出した方法を同じように悩んでいる方に伝えたくて書きました。
あなたの今日がほんの少しストレスフリーに近づくことを願っています。